2009年6月1日月曜日

波を作る

 
たまには真面目にマジックについて書いてみましょう。 長文ですが。
 
 
 
先日ドラゴンアッシュのライブ打ち上げに呼ばれ、メンバーと武田真治さんを含む20人近くの前で久しぶりに長めのクロースアップを演じました。
 
 
私は演技を構成する上で、観客のリアクションを想像して演技に緩急(波)を付けることを重視しています。
 
マジックは不思議なことが起こってあたりまえの世界です。
 
従って、マジックの質(現象のキツさ)に関してはあまり重視しません。
 

 
クロースアップマジックを20分ぐらい演じるとなった場合、不思議で不可能そうな現象を連発するというのもひとつの手かもしれませんが、マジックに対する基礎知識が無い観客にその違い(不可能設定など)を感じてもらうのは難しいことではないかと思うからです。
 
例えるなら「青色ダイオード」の発明がそんなにすごいことなのか、一般人にはピンと来ないのと同じようなもんだと思います。
 
 
 
最初からトップギアで5つの超不思議なマジックをしたとしましょう。 5つ目のマジックがその中でも一番不思議だったとしても、観客の思考が前の4つによって麻痺しており、思ったほどのウケも無く終わることが多いです。
 
逆に、不思議度70ぐらいのトリックでも、演技の順番によっては120や200のウケを取れることがあります。 私がいつも狙っているのはそこです。
 
 
私の場合は最初に大きな山を持ってきて、次に「なんじゃそら?!」というよなネタを。
そしてちょっと不思議なネタから度肝を抜くネタに持ち込んで終わるパターンが多いです。
 
この方法は難しいネタや高額なネタを複数使う必要が無いのでラクだろうと思われがちですが、自分の好きなネタを10個リストアップしたとして、流れに合わないネタを排除したりして実際に使える1個か2個に厳選しなくてはなりません。
 
元々マジックが大好きなので、演じたい物を自分で捨てるという行為はとても苦しいものです。
 
ですが、これを乗り切ると今まで以上のウケを取ることができると思います。
 
 
ちなみに、今回のショーの流れは以下のとおりです。
いつも360度囲まれて、近い人は肩越しに見ていたりする状況です。
 
 
1、セルフタイ シューレースからColour Change Shoelace
 
私はつっこまれやすいよう、最初は左右違う色の靴紐をつけておき、最後に同じ色になるようにしています。 さらに紐が解けているので演技前にダベっていると、かなりの確立でつっこんでくれます。
そして、それが演技スタートの合図となります。
演技前に「始めます!」と言って全員の注目を集めないのも私なりの方法です。
最初の現象で数名が「うぉ!!」と声を上げると周りは「え? もう始まってんの?!」と一つ目を見逃した悔しさのせいで次のネタに一気に集中してくれるからです。
 
一つ目に声を上げてもらえるようなビジュアルで後の演技の邪魔にならない良いネタを持って行くにもかかわらず、数名の人にしか見てもらえない。 つまり、ほぼ捨てネタとして使うのです。
これはもったいない気もしますが、これも最後の大盛り上がりのためです。

そして、ここで重要なのは二つ目(今回はカラーチェンジ)です。
 
見逃した人達は、何が起こったのかを数名の目撃者の「靴紐が!」という言葉から推測します。
(当然私は「今、靴紐が勝手に結ばれたんですよ」などと説明はしません)
ここで「じゃ。トランプのマジックを」と別の物を使うと本当に一発目が「捨てネタ」になってしまいます。
 
お分かりですね。 私の「不意打ちスタート作戦」は二つ目のネタは同じ場所・同じ道具で異なる不思議が起こらなくては効果がないのです。
さらに言うと、一つ目を見た人もさらに驚かせる必要があるため、一発目よりもキツい現象が求められます。 それらの点を考慮すると、今回の連携は良い物だと思います。  
 
 
 
2、カードマジックをしましょうと言ってZoom Zoom Deck
 
最初の2ネタで前のめりになっていた観客も「なんや~」という感じでニュートラルに戻ります。
 
この「観客をニュートラルに戻す」というのが重要な作業だと思います。
 
寿司で言うところの「ガリ」。 利き酒の間に口をゆすぐ「水」と同じ役割です。
 
 
 
3、ここで得意のハンバーグルーティン
 
とりあえず盛り上がります(笑)
 
 
 
4、アンビシャスカードなどのベタな手順をやった後、LITで締めます

基本的に、私はカードにサインをしてもらいませんし、デックを調べてもらったり混ぜてもらったりもしません。
 
「2枚同じカードがあるんじゃないの?」と言われたら初めてデックを手渡して調べてもらいます。
 
最初にマジシャンから「混ぜますか?」と渡すのは「出来るからやっている」という行為(マニピュレーションの最後の一枚を出したときだけ誇らしげに手の裏側を見せるようなもの)であって、観客が望んでいないタイミングでそれを強制するのはあまり良いことでは無い(あらための意味を成していない)と思うからです。
 
そして最後のLITは、やはり観客の手の中で現象が起こるという不思議であるため、クライマックスがマジシャンとは別のところで起こるわけです。
そうなると、マジシャンはその場から離れ易くなりますので、カードを触っているお客さんに「ありがとうございました」と一言告げて消えることができます。
 
 
 
5、アンコール:スーパーハード

今回はドラゴンのボーカルKj氏からリクエストを頂いていたスーパーハードをアンコールで演じました。
 
いつもは中ネタで「目が痛い!」と突然演じているのですが、アンコールということでスーパーハードを外した後、少しオマケで「目にゴミが入ってるみたい」と言って目から万国旗を出して「そりゃ目ぇ痛いはずやわ!!」などと合いの手をもらいながら爆笑の中終了しました。
 
 
 
ね。 大して大掛かりなネタはやってないでしょ?
 
 
でも手抜きではありません。 かなり考え、苦渋の決断ともなる取捨選択を行っています。
 
これもまた、観客ありきであるマジックの楽しみ方のひとつではないでしょうか。